2014年4月14日月曜日

医学部卒のビジネスマンが増えたという話と就活生の格差の話。

昨夜、「医学部を卒業したのにウェブ制作会社で勤務しています」という記事をみて、ああ、こういうひと増えているよなぁ、と思いました。最近、医学部を出たけれど医者にならないという人の話を時々聞くようになったと思うのです。

昔から、医学部を出たけれど自分は医者に向かないと思う人で、大学の、医学や生物学の研究者になったり、厚労省の官僚(医系技官)になったり、そういうのは結構いました。でも、医学部の新卒で、それ以外の一般の企業に就職していく人はほとんどいませんでした。

医者というのは、かなり変わった仕事、というか、普通のサラリーマンとは異なる態度や考え方や行動を求められる仕事です。必然的に、医者に向いた性格、向かない性格というのは、かなりクリアにわかれます。医者に向いていて、すごく生き生きと仕事をしている医者も多いのですが、その一方で、頭は良くて、人当たりもいいのだけれど、どうしても医者向きでない人というのも、結構多いのです。

先に書いたように、昔から、そういう、医者に向かない医師免許保有者の受け皿になっていたのは、研究者や官僚でした。でも、研究者や官僚だって、実は、かなり向き不向きのある特殊な仕事です。
ですから、医者にも、大学教授にも、官僚にも向かないけれど、そこそこ頭は良くて、ビジネスマンとしてはそこそこ優秀そうな人、というのは、結構いるのです。そういう彼らが一般企業に就職しなかったのは、たんに、医学部出身者には、そういうレールがなかったからです。そういう人が大学や病院でイライラしながらくすぶっているのを見るたびに、僕は、残念な気持ちになっていました。


普通のビジネスマンになっていく医学部卒業生が前より増えてきたんだと僕が気がついたのは、ここ数年のことです。たぶん、実際にこの動きが始まったのは、もう少し前、ここ10年くらいのことだと思います。僕は、最近、大学医学部を卒業して、でも医者にはならなかった人たちを何人も知っています。そのほとんどは、なぜ自分が医者にならなかったか、うまく言語化できていないようです(上のリンク先の著者もうまく説明できていませんね)が、つまるところ、自分には、医療現場だけでは満たされない部分があるのだと言っているわけです。彼らは、医者にならなかった後は、ほとんどがそれなりの就職をして、医者以外の職場でイキイキと働けているようです。彼らの多くはリスクを取ることを恐れません。なぜなら、仮にリスクをとって失敗してクビになったって、最悪、医者に戻ればいいと思っているからです。こういう態度は、一般の医者の仕事をすこし過小評価しているように思えてムカつきますが、この点では、医学部出身の基礎医学研究者の多くも、同じようなものだとも思います。

医学部出身で、一般企業に就職したいという人のニーズは昔からありました。それなのに、ごく最近になって一般企業就職者が増えた背景には、僕は、ウェブでエントリーできる「就活サイト」の普及があると思っています。

ウェブが普及した現在の就職活動の現場では、人気企業はどれも異常な高倍率で、企業は、志望者全員を慎重にチェックするわけに行かなくなっています。自然、学歴や資格などで「足切り」することが多くなります。就活生の多くも、何度も落とされて疲労し、「誰も得をしない状況」などと言われているようです。

しかし、高倍率というのは、見方を変えますと、これまで、就活に参加していなかった就活生が競争に参加するようになってきたということでもあります。
少し前まで、医学部出身者が一般企業を受けるときの一番のハンディキャップは、周囲が、(あたりまえのことですが)医者志望の学生ばかりで、一般企業の就職活動をしている友人がほとんどいなかったということでした。いまでは、周囲にそういった友人が少なくても、相手企業についての情報は、すこし努力すればインターネットなどで得られるようになってきましたし、エントリーも簡単にできるようになりました。

批判の多い現在の就活ですが、一定以上の高学歴の人にとっては、人生の大きな方向転換が簡単にできるようになったというメリットがあるのだと思います。僕は、そういう方向転換をスムーズにこなして、別の分野のエリートになっていく医学生を見ていて、これは必ずしも悪いことではないな、と思っています。

少なくとも、この流れを逆転させることは難しいでしょう。元々満たされていなかったニーズが、ウェブによって幅広い選択肢が与えられた結果、満たされるようになった、ということなんでしょうから。それに、相当の知的能力を持ったエリートが、自分が不向きな分野でくすぶっているのは社会全体にとっても損失だとも思います。人生の方向や専門分野を18歳で完全に決めてしまうというのは、間違いが起こりやすい危ない方法です。


これまでよりも大量に就活にエントリーされることで、これまで見かけることがなかったような出身学部の就活生も出てきている。その一方で、選ぶ企業側は、全員を慎重にチェックするわけに行かなくなったから、学歴とかなんとかで「足切り」をしている。結果、多くの就活生が、エントリーシートも見てもらえなくなって、有利な学生とそうじゃない学生の格差が広がっている。

ここまで考えてきて、これは、何かに似ているな、と思いました。

少し前に、iOS用のアプリを作っている友人が言っていました。どんどんアプリの種類が増えて、ユニークな、これまでにないアプリが出てきている。アプリ市場全体の売上も伸びている。でも、一方で、ほとんどのアプリはユーザーの目に触れることがなくなって、ランキング上位のアプリ以外は売れなくなっていている。アプリ間の格差が広がっている。

少し前、ドワンゴが、就活に少しだけお金を取るという試みをやるというニュースが流れました。もし、あの試みが普及したら、確かに、エントリーする就活生は減るでしょうね。企業はじっくり時間をかけて就活生を選べるようになると思います。しかし、たぶん、この格差は戻らないのではないでしょうか?もし、アップルが、アプリ開発者から今より多額のマージンを取るようになっても、それだけで売れるアプリの種類が増えるとは思えませんから。

ひょっとしたら、このあたりは、カネを取るのではなくて、AppStoreや就活サイトのデザインを変えることでなんとかなるのかもしれません。

0 件のコメント:

コメントを投稿